2006/09/07

むしろ苦労知らずが!? - 美しい国は、美しい地域から -

 豆腐屋の朝は早い。寅次郎ジイさんは別段、仕事をするわけではないが、3時すぎにはもう店を開け、飼い犬と大きな声で会話。『老人と犬』。鼻をつく油揚げの臭い。筆者がいまだに油揚げが苦手なのは、この経験がトラウマとなっているからである。

 成城は今も田園調布と並ぶ、東京を代表する高級住宅地である。その一角で筆者の学生生活は始まったわけだが、何せ丸出しの田舎モンであるから、すべて物珍しさが先に立った。

 駅の階段を下りるとすぐ三菱銀行があった。CDコーナーで、なけなしの何千円かを下ろしていたら、隣で加山雄三夫人が分厚い札束を引き出していた。

 まっすぐ行くと、宇津井健経営のレストラン「葡萄屋」(?)があって、試しに入ろうかと思ったが、ピラフ1200円の数字を見てすぐ腰が引けた。路地を入る と、もう売れなくなっていた日活の青春スター、浜田みつおの居酒屋があった。パン屋では大蔵官僚と結婚した司ようこ母子が買い物をしていた。

 別段、筆者に東大コンプレックスはないが、たまたま自室の以前の住人が東大生だったことで、下宿屋のバアさんから「君も誰々さんのようにしっかり勉強して出世しなさいよ」と激励を受けたが、その期待は早々に裏切った。

 で、安倍長官である(フーゥ)。母方の祖父、岸信介元首相は、実弟の佐藤栄作元首相と違って東大きっての "大秀才" で、銀時計組ではなかったか。

 実父の晋太郎氏も東大→毎日新聞社のエリートコース。しかるに、長官は成蹊卒。後に警察官僚から衆議院議員となる平沢勝栄氏に家庭教師を受けながらも…。恐らく青春期には相当なプレッシャーを感じていたはずだ。

 しかし、見方を変えればこうした経歴が長官の "魅力" と言えないこともない。むしろ、権力欲を不自然に押し隠した "取り巻き連中" の汚さだけが目につく今日この頃だ。

 『月と6ペンス』や『人間の絆』を書いたイギリスの作家、サマセット・モームは「人間は余り苦労を知らない方が良い」とも言っている、くらいだ。

 その長官の出馬に当たってのキャッチ・コピーは「美しい国、日本」。文春からは『美しい国へ』という著書を出して、その政治信条を披れき。内政、外交ともになかなかに読ませる内容に仕上がっている。

 昔、川端康成氏が日本人初のノーベル文学賞を受けた後、『美しい日本の私』とかいう随筆を書いていた。確か当初は『美しい日本と私』という題名だったものを、余りにおこがましいので変えた、と書かれていたのを記憶している。

 美しい国は、美しい地域の集合体。さあ、美しい島原半島を創り上げていきましょう!!‐おわり‐