2006/10/15

「言葉の力」は大きい - 教育とは心に火を燈すこと -

 人間学を学ぶ月刊誌『致知』を定期購読している。11月号の編集テーマは「言葉の力」。本欄を書き始めたきっかけが「言葉のチカラ」を掲げた朝日新聞の「ジャーナリスト宣言」だったから、何かしら因縁めいたものを感じる。

 特集では、三本の対談記事が組まれており、その一つに我らが国見高サッカー部総監督の小嶺忠敏さん(昭和20年生まれ、島商→大阪商科大卒)が登場している。

 対談の相手は、秋田県立能代工業高校バスケットボール部を率いて前人未到の計33回の全国制覇を果たした名将、加藤廣志さん。昭和12年生まれで、現在はスポーツセンターの館長職。能代工→日体大卒。

 小嶺さんが「麦は踏まれて強くなる。人間も踏まれて強くなる」と持論を展開すれば、加藤さんは「諦めに変わる前に、いまここで勝負だ!!」と苦闘の時代を振り返る。

  小嶺さんの「麦踏み哲学」は母親から教わった、という。ある時、麦踏みの行為自体を不思議に思った忠敏少年に母はこう諭した。「踏まれた麦は上を向いてス クスク育っていくが、踏まれていない麦は、冬に霜や雨が降るとしおれてしまって、作物にならない。人間も同じだ」と。

 また、台風後に大木が何本も倒れているのに竹やぶが被害を受けていない状況を指して「竹には所々に節がある。だから強い。人間も遊ぶ時は遊んでもいいが、きちっとケジメをつけねばだめだ」とも。
 一方、加藤さんの父親は大学進学に際し 1.酒・煙草は自分が稼ぐようになってから 2.ギャンブルには手は出すな 3.アルバイト禁止 - という三つの条件を付した、という。

 小嶺さんは「母の教えが私の人生の根幹となった」と語り、加藤さんは「『アルバイトをするくらいなら、自分の好きなバスケットを徹底してやってこい。塩を舐めてでも仕送りをしてやるから』との父の言葉が私の人生の支えとなった」と振り返っている。

 興味深かったのは、小嶺さんが優勝回数について言及している場面。それによると、全国に4200の高校がある中で、ここ30年間の全国大会のうち3回以上の優勝経験者は10人くらいしかいいない。ちなみに小嶺さんは17回。

 「常勝」の難しさを象徴する数字であるが、小嶺さんは言う。「3回以上優勝している者と、それ以外とで技術や戦術面での違いはさほどない。ポイントは躾(しつけ)教育とか人間教育がしっかりできているかどうかだ」。

 最後の要諦は「言葉一つで人間は喜び、傷つく。だから難しい。心に火を燈すような言葉を投げ掛けることが指導者として求められている」と。

 「指導者」を「親」や「経営者」に置き換えても十分に通じる文脈だ。