2007/05/05

力さんの〃慧眼〃に敬服 - 江戸庶民の知恵「三ない主義」 -

 連載百回目を祝福するハガキを東京・町田市在住の洋画家、永田力さんからいただいた。

 もう20年も前になろうか、あるシンポジウムがあって、氏の講演を聴いた。その時は、日本各地の名城をまとめた某全国紙編さんの豪華本に、島原城が誤って記載されていることを激怒されていた。

 その後も幾度か面談しているが、「力さんは、ほとほと『慧眼』の持ち主である」と、最近つくづく感じるようになった。

 その一つが「江戸文化」の見直し。力さんは明治以降の藩閥政治の弊害を切り捨てる一方で、「循環型社会を世界に先駆けて完成させた」江戸当時の為政者の手腕を高く評価。

 綾小路きみまろではないが、あれから20年…。今や空前の「江戸ブーム」である。

 何週間か前の朝日新聞の『ニッポン人・脈・記』では、先年亡くなった漫画家で江戸文化の研究者だった、杉浦日向子(すぎうら・ひなこ)さんが残した次のような言葉が紹介されている-。

 「三百年の江戸の太平が都市部に暮らす長屋の住人にもたらしたライフスタイルは『三ない主義』といって、三つがない」。

 すなわち[1]モノをできるだけ持たない[2]出世しない[3]悩まない-と。

 ストレス菌が蔓延している今の世でも、十分に通じるこうした「江戸庶民の知恵」には、すっかり脱帽してしまう。

 力さんはこんなことも言っていた。「島原半島はサトウキビ栽培の北限に位置するから、もっと奨励すれば良いのに…」。

 果たして、時代はその通りとなった。サトウキビを原料とした「黒糖」は昨今の健康ブームに乗って貴重品となり、都会で飛ぶように売れている。

 しかも、法律上の規制(産地指定)があって、奄美群島でしか生産できないようになっている、というから、なおさら悔しいではないか。

 一度だけ力さんの自宅を訪ねたことがある。駅から少し離れた、閑静な住宅地の一角に建つ瀟洒な和風の家で、壁は白塗りの漆喰(しっくい)だった。

 「漆喰は湿気の多い日本の風土に適した素材」との説明を受けるまでなく、それは後に社会問題ともなった「シックハウス症候群」に対する無言のアンチテーゼでもあった。

 本稿は別段、永田力先生を持ち上げるコーナーではないが、事ほど左様に「時代の流れ」を言い当てられてしまうと、うすら寒い気すらする。

 環境問題をはじめ、時代はいま、大きく生まれ変わろうとしている。もっと言うなら、ホンモノしか生き残れない世の中になってきた。

 その兆候は分野を問わない。我々の業界もしかり、だ。ホンモノの「地域情報化」のあるべき姿を改めて考えている。