2007/06/15

最近〃感動〃した話 - 苦労?もう忘れてしまった -

 前国見高校々長で同高サッカー部総監督だった小嶺忠敏さんの母、ミツキさんが去る7日、他界された。享年97歳。

 通夜・葬儀は深江町の寶玉殿で営まれ、通夜のみ参列させていただいた。ご主人が沖縄戦線で散華され、その時、監督はまだお腹の中。そのお話を聞いて、何かしら熱いものがこみ上げてきた。

 監督とお母様の話はこれまでも幾度か講演等で聴いたこともあるし、昨年から定期購読している月刊誌『致知』でも取り上げられていたので、いくらかの予備知識はあった。

 しかしながら、読経後のお説教の中で耳にした、菩提寺「称名寺」のご住職との会話は、これまでとは一味違った響きとして伝わってきた - 。

 【住職】国見高校も優勝して良かったですね。【母】息子(監督)にはいつも言っております。決してお前の力ではない。全ては周囲の皆さんと、奥さんのご協力のお陰だよ。

 【住職】ご主人が戦争で亡くなってから、女手一つで7人の子どもを育てるのは並大抵ではなかったはず。随分と苦労もされたでしょうに。【母】苦労?もう忘れましたね…。

 さりげない会話のやり取りであるが、何と含蓄に富んだ、味わい深い話ではないか。全くシチュエーションは異なるが、一瞬、映画「カサブランカ」の、あの有名なシーンが頭に浮かんできた。

 イングリッド・バーグマン扮する元恋人イルザの質問に対して、リック役のハンフリー・ボガートが答える。「そんな昔のことは忘れた」。「そんな先のことは分からない」。

 これぞ「ハード・ボイルド」の世界を代表する苦みばしった男の〃決め台詞〃だが、ミツキさんもリックも〃本心〃は奈辺(なへん)にあったのだろうか?

 ご主人がいなくて心細いことも多かっただろうし、また子どもたちにとっても、父親が控えている家庭が羨ましく見えたことも多々あっただろう。

 しかしながら、一家は気丈な母を中核として、一枚岩の結束で、不屈の闘志を養い、末っ子の監督は〃日本一〃の座をナント17回も勝ち取った。前人未到の大記録である。

 ミツキさんが子どもたちに諭した幾つかの教えを思い起こした。「踏まれた麦は上を向いてスクスク育っていくが、踏まれていない麦は、冬に霜や雨が降ると萎れて、作物にならない。人間も同じだ」。

 「竹には所々に節がある。だから(雨風にも)強い。人間も遊ぶときは遊んでもいいが、きちっとケジメをつけねばだめだ」。

 監督は来月執行される参議院選挙の立候補予定者。教育界から政界への転進については、様々な論評があるようだが、いずれにしても「人生の大きな節目」であることに変わりはない。

 間もなくキックオフだ。