2008/02/14

宅島サキヨさん逝く - 「愛」に溢れた句集を遺して -

宅島建設社長、宅島壽雄氏の母堂、サキヨさんが12日午後、入院先の諫早市内の病院で亡くなった。享年85歳。子供は長男の壽雄氏を筆頭に、次男が同社専務の壽晴氏。このほか4人の娘さんがいる。

通夜は13日午後7時から、告別式は14日午後1時から、いずれも雲仙市小浜町北本町の来迎舎「小浜会館」で営まれる。

同郷の大先輩であるが、余りにも世代がかけ離れているため、面識は少なかった。ただ1度だけゆっくりとお話を伺う機会を作って頂いたことがある。

平成11年6月。自選句集『いわし雲』を出版された時のことで、取材のためご自宅にお邪魔した日のことを〃昨日の出来事〃のように憶えている。

ペンネームは平仮名ではなく、「咲代」という漢字を使われていた。久方ぶりに同句集を読ませて頂いてみて、門外漢ながら、その「観察眼」の鋭さに驚きを禁じえない。

「あとがき」で確認すると、サキヨさんが俳句の道に入られたのは、今を遡ることちょうど30年前。夫(先代社長)の看病生活を続けながら、であった。

句集は、昭和53年から平成11年までの足掛け20年余で詠みためた378点を、編年スタイルでまとめてある。

題材はその折々の身の回りの出来事が中心で、女性ならではのたおやかな〃感性〃が息づいている。まるで筆の運び音まで聞こえてきそうな感じだ。

誤解を恐れずに言えば、作品の「底流」を為すものは「愛」そのものに他ならない。そのベクトルは肉親や家族、自らの古里、さらには世の事象すべてに向けられている。

ユーモアもある。平成2年に詠まれた〈帰省子の服に煙草の匂いあり〉との一句は社長の長男か、はたまた次男か!?

巻頭を飾っているのは〈病む夫の寝息聞きつつレース編む〉という作品。本のタイトルともなった「いわし雲」が出てくるのは昭和60年作の〈思うこと数限りなし鰯雲〉から。

指導に当たった「きさらぎ」の朝倉和江さんは序の中で、「宅島さんの俳句の傾向は、鈴木真砂女に似ている。(中略)馬酔木の作家でいうと、及川貞の作品に近い」と専門的な立場から分析している。

残念ながら、ここ数年は病魔との闘いが続いていたこともあって、社長が望んでいた「米寿」「白寿」の記念句集は出せなかった。しかし、その分『いわし雲』の存在価値は増す。

小生も昨晩(仮通夜)、小浜町上脇にあるご自宅を訪ねたが、さらに驚いたのは、その達筆ぶり。よくよく句集を眺めてみると、カバーから奥付まで、全てがご本人の直筆であった。

今改めてその才能の喪失を嘆くとともに、小生も帰途、澄み渡った夜空を見上げながら一句ひねってみた。〈冬夜空思ひ遥けく流れ星〉大先輩の苦笑する顔が浮かぶ。