常岡浩介さんが出版…プーチンの〃血塗られた闇〃
‐(株)ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐
国際ジャーナリスト「常岡浩介」と聞いても、すぐにピンとくる人は余りいまい。一方で「リトビネンコ暗殺事件」(〇六年・ロンドン)は世間を震撼とさせたことでまだ記憶に新しい。直截な表現をすれば、元ロシア連邦保安局中佐(スパイ)だったアレクサンドル・リトビネンコへの〃単独インタビュー〃に成功した人物が常岡である。
六九年、島原市生まれ。医師の父と教師をしている母のもとに生まれ、島原高校から早稲田大学に進んだ。卒業後4年ほど長崎放送の報道記者をしていたが、思うところあってフリーランサーに。現在、活躍の舞台は〃世界〃。その常岡がこのほど、アスキーメディアワークスから新書本を出版した。タイトルは『ロシア 語られない戦争』(チェチェンゲリラ従軍記)。
帯に書かれたキャッチコピーは色合い以上にショッキングで、「プーチンの血塗られた闇」とあるが、本文を読み進めていくうちに、決してオーバーな表現ではないことが次第に明らかになってくる。同書はサブタイトルにある通り、常岡が9年の長きにわたって「チェチェン独立派」のグループと行動をともにした〃体当たり戦記〃である。が、そこに描かれているのは、言葉で言い表せるような生やさしい世界ではない。
恨み、嫉み、裏切り、忠誠、信仰…。ありとあらゆる人間の感情と理性がないまぜになって話は進む。命の危機に晒されたことも一度や二度ではない。だが、すべて〃事実〃であることの重みが作品に奥行きを与えている。一言でいえば、すぐれた「ノンフィクション」であり、「事実は小説より奇なり」という言葉の普遍性を浮き彫りにした形だ。つまり、平和を希求する常人の意識や想像を遥かに超克したルールで動いているのが、現代の「ロシア国家」である、と。
常岡は取材の過程でイスラム教に入信している。洗礼名シャミル。それこそ常人の感覚で言うと、「なぜそこまでして?」という素朴な疑問が湧いてくるのだが、「真実を伝える」というジャーナリズムの原点に根差せば、当然の帰結だったのかも知れない。
誤解を恐れずに言えば、常岡の体内を駆け巡っているのは「正義」という熱き血潮に相違あるまい。そのままNBCに留まっていれば、平穏な人生が送れたであろうに…などとの詮索は、この際まったくの野暮というものだ。巻末付録にまとめられたリトビネンコへの単独インタビューは、恐らく記者としての常岡の「金字塔」であろうが、そこに留まろうとしないところがいかにも硬骨漢の常岡らしい。
現在はアフリカで元気に取材活動を展開しているやに聞いているが、健康に留意して、さらに皆を戦慄させるような迫真のレポートを送ってほしい、と願う。同郷の先輩としての立場から、幾分の羨望と大いなる賞賛を交えて。[文中敬称略]
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