命の値段が豆腐8丁…「対価」について考える
‐株式会社ケーブルテレビジョン専務 清水眞守‐
〈1銭2銭の葉書さえ、千里万里と旅をする♪〉。ご存知〃バタやん〃こと田端義夫さんのヒット曲『十九の春』の一節だ。歌詞はこのあと〈同じコザ市住みながら、逢えぬわが身のせつなさよ♪〉と続く。
さーて、今日は何を書こうかと悩んでいるが、少し大上段に構えて、ひとつ「対価」(コスト・パフォーマンス)について考えてみるか…。マジ!?
筆者が物心ついた時の葉書の値段は、確か5円だった。それが今では50円。10倍もの値上がりだが、僅かそれくらいの料金で全国あまねく所に「便り」が送れるのだから、考えようによっては安いものだ。
ただ、その便利極まりない葉書の存在も、今やインターネット(メール)の出現によって、段々とその影を薄くしつつある。まあ、無くなってしまうことはないのだろうが…。
話は前後するが、なぜこのような柄にもない「テーマ」を思い立ったかについて、少しお話しておこう(実は内心「しまった」と後悔している)。
きっかけは、ノンフィクション作家、佐野眞一さんの著作。本の名前は『目と耳と足を鍛える技術』。筑摩書房から出ている新書版で、「初心者からプロまで役立つノンフィクション入門」というサブタイトルが付されている。
これまでも佐野さんの作品は幾つか読ませて頂いているので、中身についてはすんなりと入っていけた。というより、余りに面白くて一気に読み上げた。
「対価」について書こうと思ったのは、佐野さんが、ダイエーの創業者、中内功さんに対して行ったインタビューの中での〃やりとり〃が俄然印象に残ったから。
戦時中、中内さんは過酷なフィリピン戦線で生き残り、鹿児島県加治木港に復員。その時、国から支給された手当ては40円。それを手に列車を乗り継いで実家のある神戸を目指す。途中、門司で朝を迎える。
空腹を覚えた中内さんが立ち寄った先は、駅前の豆腐屋。値段は1丁5円。「死線を彷徨った挙句の『対価』がわずかに豆腐8丁分かい!?」。この時感じた理不尽な思いが猛烈なエネルギーとなって、後の「主婦の店ダイエー」の開店へと向かわせる。
その間の心境の在りようについては『カリスマ』(新潮文庫)という作品に描かれているだろうから、詳しくはそちらをご参照いただきたいが、個人的には「対価」という問題を、物の見事に目の前に突きつけられた思いだ。
数日前の朝日・天声人語欄に、故イブ・サンローランの「遺産問題」が取り上げられていた。何百億円もの大枚をはたいて手に入れた国宝級の美術品の「対価」もさることながら、この豆腐1丁の値段こそがより「人生の真実」を物語っているような気がしてならない。
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