2009/04/30

大食いのコツは丸呑み…「鰹のタタキ」への怨念

‐株式会社ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐

さあ、いよいよ若葉萌える5月。「目に青葉 山ほととぎす 初がつお」-。

誰の作品なのか知る由もないが、初夏到来の歓びを素直に詠んだ、簡潔にして極めて視覚的な秀句である。

子供の頃、橘湾でやたらと鰹が水揚げされた年があった。親戚が網元をしていた関係で、トロ箱何杯分も貰って近所に配って歩いた記憶がある。

その当時、台所をあずかっていた婆ちゃんには「タタキ」にして供するという発想は微塵もなく、食卓には来る日も来る日も「煮付け」が並んだ。

それ以来、鰹の味にはすっかり遠のいていたのだが、さすがに東京の街では江戸食文化の名残として〃珍重〃されていたようで、学生時代にとある1枚のチラシに俄然目が留まった。

そこにはこう記されていた-「新鮮な高知県産鰹のタタキ1尾。制限時間内に完食すれば5千円を進呈!!ビール中ビン1本付き。ただし、残したら5千円いただきます」と。

確か、大きさは1.5キロくらいで、制限時間は30分ではなかったか。ビールの銘柄は間違いなく「サントリー」であった。

当時、筆者は山手線の恵比寿駅から徒歩15分くらいのアパートで、友人(今では著名人)とともに、極めて〃清貧な生活〃を送っていた。

そこへ降って湧いたような〃一攫千金〃の儲け話。これぞ天の配剤!!二人は何のためらいもなく〃チャレンジ〃を決めた。

会場は6駅先の高田の馬場。とある雑居ビルのドアを恐る恐る開けると「ハーイ、ラッシャイ!!」と仰天するような威勢の良い掛け声。

しばらくして運ばれてきたのは尾頭付きの中型鰹。裏表の4列並びで、綺麗に盛り付けてある。正直「これくらいなら軽くいけそう」と高をくくった。

ところが、いざ食べ始めてみると、全然減っていかない。そのうちビール瓶も空になって、薬味のニンニクと魚の生臭さばかりが気になり出した。

時は刻々と過ぎ去ってゆくが、タタキの列は整然としたまま。そして、とうとうタイムアップ。友人の方は4列目に箸を伸ばそうという所まできていたが、小生は2列ちょっとでギブアップしてしまった。

支払いの段になって、我々は大きな過ちを犯したことに気付いたが、時すでに遅し。涙と汗の染み付いたなけなしの5千円札2枚をそっと差し出して、その場を去った。

近くの公園までトボトボと歩いて行って、二人して〃敗因〃を分析。そして達した結論はこうだった。「噛んだから満腹感が先に立ってしまった。丸呑みすれば勝てたはず!?」。

が、すべては〃後の祭り〃。電車賃も持たない二人は約2時間をかけ、疲れ切ってオンボロ下宿に辿り着いたのでありました。