2009/05/13

懐かしい電気ブラン…多くの文豪も飲んでいた

‐株式会社ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐

話の材料に困ったら『今日は何の日?』(学研)などのいわゆる〃ネタ本〃をひも解いてみるのだが、今日5月13日の欄を見ても、浅草の「三社祭」があるくらいで、さして参考にならない。

しかし、何かしら書かなければ「穴」が開いてしまう。さーて、本当に困った。仕方がないので、もう随分と以前に行ったことのある「神谷バー」のことでも書こう。

同バーは、地下鉄銀座線の浅草駅を上がってすぐの所にある。何よりもその存在を世に知らしめているのは「デンキブラン」というカクテルである。

ここで言う「デンキ」とは「電気」のことで、同バーが営業を始めた明治の昔には〃最新流行〃という意味が付されていたのだそうだ。 

また、「ブラン」の由来は「ブランデー」だそうで、これをベースにワイン、ベルモット、キュラソー、ジンなどを加えて出来上がり。アルコール度数は40%前後というから、かなり強めである。

筆者が初めてその酒を飲んだのは同バーではなく、バイト仲間の一橋の学生(小倉出身)が連れて行ってくれた国立(くにたち)の居酒屋だった。

「何や、お前はデンキブランも知らんとか?田舎者が!!」。デンキブランどころか、東京に出るまで、ピザがどんな食べ物か知らなかった。

その時の印象を言えば、「口当たりは良いが、絶対あとからきいてくる『魔性の酒』に他ならない」と感じた。事実、その晩、さっそく足にきた。

証明するかのように、作家の太宰治は著書『人間失格』の中で、「酔いの早く発するのは、電気ブランの右に出るものはないと保証し、云々」と、その効用(?)を説いている。

このほかにも、永井荷風、石川啄木、高見順、谷崎潤一郎、坂口安吾、檀一雄など、電気ブランをこよなく愛した作家も多く、詩人の萩原朔太郎は「一人にて酒をのみ居れる憐れなる となりの男になにを思ふらん」(神谷バァにて)と詠んでいる。

筆者もその後何度か同バーを訪ねたことがあるが、昼間の機会が多かったため、滅多に口にしてはいない。もちろん、島原での経験は皆無だ。

と言うより、注文したことがない。「セブンストーン」あたりに行けば、その〃味〃に巡り会えるのかもしれないが、最近はとんとご無沙汰だ。

バアチャン、怒っているだろうなぁー。きっと店に行けばこう言われる。「ワーラ、なーんしよったんな。西川清人さんが生きとらす時にゃ、あがんよう来よったもんの」 - 。

そうそう、ご無沙汰と言えば、雷門の斜向かいにある知人の実家、「西山饅頭」(下町の雰囲気抜群!!)にも失礼のしっ放しだ。近々、ソーメンでも送っておこう。