「天才」の言葉に泣く…辻井伸行さん&藤沢秀行さん
‐株式会社ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐
各紙、筆を揃えるかのように、米国で行われた国際ピアノコンクールで優勝した盲目のピアニスト、辻井伸行さん(20)の〃快挙〃を褒め称えている。
誠にもって〃同感〃である。殊に10日付『天声人語』(朝日)で紹介されていた語録には泣いた。「一度だけ目が開くならお母さんの顔が見たい」と…。常々、親不孝、嫁不幸を重ねている身にとってはズシリとこたえる〃響き〃である。
辻井さんは生まれつき目が不自由で、音だけを頼りに現在の境地に至った。もって生まれた「天賦(てんぷ)の才」もあろうが、「努力」の2文字の存在を見落としてはなるまい。
発明王エジソンの有名な言葉に「天才は1%の霊感と、99%の発汗から成る」というのがあるが、今更ながらに、その深い意味合いを考えさせられる。
何はともあれ、おめでとう、辻井さん!!さらに精進を重ねて、どうか21世紀を代表するピアニストに成長して下さい!!
ところで、「天才」にも色々あって、先ごろ亡くなった藤沢秀行さん(享年83歳)は〃破天荒〃を地でゆく無頼派棋士の「天才」だったようだ。
亡くなった直後に読売『編集手帳』で紹介されていたエピソード。将棋の米長邦雄名人の奥さんが「主人がもう何日も家を空けているんですよ」と愚痴の電話を入れたら、モト夫人は「うちのは5年ほど出たっきりです」と答えた、という。
そのモト夫人が発売されたばかりの文藝春秋7月号に、「『無垢のひと』藤沢秀行の最期を看取って」と題して手記を寄せている。これが読売コラムの〃信憑性〃を裏付けるような内容で、すこぶる面白い。
藤沢棋士は一言でいうなら「直情径行」の人。思い立ったら自分の意のままに動き出す性格で、銭湯の帰り道でモト夫人を見初めた。最初のデートに家族総出(6人)で現れたという話には大いに笑った。
その甲斐あって、めでたく結婚まで漕ぎ着けるのだが、後は酒に、女に、ギャンブル…にとやりたい放題、好き放題。ただ「女」と言っても半端じゃない。2軒の「外の家」をつくり、それぞれに2人ずつの子をなしているのだ。
一方で、本業の囲碁の勝負では「天才」の名を恣(ほしいまま)にする抜群の冴えを見せ、昭和52年から前人未到の「棋聖戦」6連覇。同時に死の直前まで後進の指導・育成に心血を注いだ、という。
モト夫人の述懐―「わがまま放題で酒浸り。競輪・競馬に熱中したり、事業に失敗したり…(中略)…外に何人もの子供をもうけて、頭の中は碁のことばかり。それなのに、こんなに多くの人に愛された…」。
藤沢さんは亡くなる10日ほど前に、長男を枕元に呼んで「母ちゃん、好きだ」と2度繰り返した、という。辻井さんの場合とは、また違った意味で泣けた。
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