2009/09/09

事実は小説より奇なり…太宰治と藤田田との〃接点〃

‐株式会社ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐

今朝遅く起きたら、根岸吉太郎監督の作品『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』が、今年のモントリオール映画祭(第33回)で最優秀監督賞を受賞した、とテレビのレポーターが騒いでいた。

昨夜来の宿酔の頭の中で「それがどうした?」と皮肉な考えもよぎったが、昨年の『おくりびと』(アカデミー賞)に続く〃快挙〃だけに、日本国民の一人として喜ばないわけにはいかない。邦画万歳!!

原作者の「太宰治」は今年が生誕百年目だそうで、まるっきり〃出自〃の違う同年生まれの「松本清張」と比較した様々な企画が目白押しのようだ。

恥ずかしながら、太宰の作品は余り読んだことがない。唯一覚えているのは「メロスは走った」の書き出しで始まる『走れメロス』(教科書)くらいだ。

確かその時、国語の先生は「倒置法」という表現を使われたが、いまだに合点(がてん)がいかない。何十年経ってもこんな事を言っているようでは『人間失格』の烙印を押されてしまいそうだが…。

太宰の生地である「金木」(津軽地方)には行ったことはないが、愛人と入水自殺を図った「玉川上水」の近くは、タクシーで走ったことがある。本来なら西武新宿線で「田無」に向かうべきところだったのを、何かの都合でJR中央線「三鷹」経由で、ということになった。

聞くとはなしに運転手が語りかけてきた。「お客さん、太宰治はこの辺りから飛び込んだそうですよ」。目線を外に移すと、見事な桜並木がどこまでも続いているように見えた。もう10年以上も前の話だ。

まあ、せっかくの機会だから『ヴィヨンの妻』とやらも買って読んでみたいと思うが、その死の当日に、太宰本人と会って言葉を交わした人物がいることを最近になって知った。

本欄でも幾度か登場いただいているノンフィクション作家の佐野眞一さんが『新忘れられた日本人』(毎日新聞社)の中で、その事を取り上げている。その人物とは、誰あろう、日本マクドナルドを立ち上げた藤田田(ふじた・でん)だというのだ。

太宰は津軽の大地主の息子で、東京帝大を出た「学士様」だった。一方、藤田さんはやり手の経済人というイメージばかりが先行してしまうが、この方も同じ東大出。

著書によれば、二人が出会ったのは三鷹駅前の飲み屋で、その時、太宰は「オレはもうダメだ」と言いながら、血の混じったツバを吐いて痛飲していた。

その姿を見た藤田はこう吐きつけたのだそうだ。「あんたなんかマスコミ受けしているだけだ。死にたいって言うんなら、本当に死んだらどうだ」と。

太宰はその晩、愛人の山崎富栄と入水自殺。まさに「事実は小説より奇なり」である。