2009/10/08

烏に反哺(はんぽ)の孝あり…人生の〃実りの秋〃遥か

‐株式会社ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐

出張から帰ってきたら〃仕事の山〃。合間を見て歯科医院にも行かないといけない。長崎界隈では悠長に「モッテコーイ!」の掛け声が飛び交っているようだが、「もうここには何も持ってこんで!」と哀願したいくらいだ。

凡人ゆえに、日々の些細な物事で腹が立つことも度々。だが、奥歯を噛みしめようにも、もうソレも無い。ツルンとした蛸の足の吸盤のような〃抜け殻〃が残っているだけだ。

そうだ、蛸で思い出したぞ!いつだったか、三重県の「鳥羽水族館」の館長さんが島原で講演されていたことを。それは蛸の雌雄の見分け方に関する〃一考察〃だった。

「いいですか皆さん、オス蛸の吸盤は綺麗な形をしていますが、メス蛸のそれはいびつなんですよ」 - 。

何の意図でそんな話をされたのか良く覚えていないが、不思議とこのくだりだけはインプットされている。

ああ、早く歯がよくなって、思いっきり蛸のぶつ切りに喰らいつきたい。ウインナーもいいよなぁ。それと熱々のジューシーな焼肉も捨て難い…。折角の〃食欲の秋〃なのに、叶わぬ夢ばかりが頭の中を駆け巡っている。

そう言えば、英語の諺にこういうのがあった。「人は健康を害して初めて、その有難みがわかる」。今でも諳んじることができるが、肝心要の〃要諦〃を外してしまっている、心底アホな自分が今ここに居る。

酒もしばらくはお預けだ。仕方がないので、家の周りをブラブラ散歩していたら、ホテル「花みずき」の一角に、若山牧水の「歌碑」(常夜灯)を見つけた。

「有明の 海のにごりに 鴨あまた うかべり船は 島原に入る」。いつごろ詠まれた作品なのか知る由もないが、牧水と言えば、酒をこよなく愛した宮崎県(日向)出身の歌人として有名だ。
その宮崎で暮らす知人から、先日、珍しい焼酎が送ってきた。なかなか手に入らない〃幻〃の類いだが、こんな口中の状況では味わうべくもない。歯痒い?いや、歯が痛い。

それでも仕事は仕事。いつものように会社に出向く。一通りメールをチェックして表に出ると、落ち葉の吹き溜まりの中に白いモノが目立つ。何のことはないカラスの糞だ。

へー、そうなんだ!「カラスは、体は真っ黒なのにウンコは白いんだぁ」などと妙な感慨に耽りながら、色褪せ、朽ち落ちた花びらを拾う。ここにも花なりの生涯がある。

ふと空を見上げると、ハトが民家の軒先に止まっている。「鳩に三枝(さんし)の礼あり、烏に反哺(はんぽ)の孝あり」ともいうが、はて我が身はどうか…。

人生を四季で表すと、そろそろ〃晩秋〃のコーナーに差し掛かっているというのに、この体たらく。情けない。早く「歯」を完治させ〃実りの秋〃を迎えたいもの。無論、我が人生において - 。