2010/05/01

『福翁自伝』に感動!…慶應三田は旧島原藩中屋敷

‐株式会社ケーブルテレビジョン島原専務 清水眞守‐

28、29と1泊2日の日程で上京していた。「区域外再送信」というCATV業界挙げての問題がまだ片付いておらず、連盟本部から緊急の呼び出しがかかった、という訳だ。

その際、移動時のヒマつぶしにでも、と思って持参したのが『福翁自伝』(PHP出版)。ところが、これが滅法面白くて、ついはまり込んでしまった。

今さら説明も要すまいが、「福翁」とは慶應義塾創始者の福澤諭吉先生のこと。この方が60代半ばにして自らの人生(生き方)を振り返った、言わば「一代記」である。

巷はいま、NHK大河ドラマの影響で「龍馬」が大人気だが、幕末期のほぼ同時代を生きていたはずなのに、この本の中には、まったくもって「その名」が見当たらない。西郷しかり、木戸しかりである。

もとより筆者自身が日本史に詳しい方ではないので、その辺りの事情は不案内なのだが、とても不思議なスタンスである。

俄然興味を持って読み進めたのは、現在の慶應大学本部のある三田キャンパスを手に入れるくだり。他でもない、同所は旧島原藩の江戸中屋敷跡だ。

この話については以前、画家の永田力さん(旧制島中第●回卒)からも伺っていたので、随分と分かりやすかったのだが、福澤さんというのは何とも「策略家」である。

事の起こりは交番制度について書かれた洋書の翻訳を、幕府方が福澤さんに依頼したことから。知略に富む福澤さんは、その「取引条件」として、環境抜群で広大な「三田の地」を希望したのだそうだ。

とすれば、慶応義塾という存在は、もっと「島原」に礼を尽くしてもよいのでは…という気がしないでもないが、残念ながら、余りご縁がないのは、皆様ご案内の通り。

まあ、誤解を恐れずに言うなら、福澤さんという人は終始一貫、あらゆる局面を「冷静沈着」で押し通した。そして自らの信念に基づき、淡々とその思いを叶えていった、稀有の実践活動家であった。

つまり、慶應建学の精神(DNA)には、「裕福」「おしゃれ」などといった現代の一般的なイメージとは真逆を行く、「骨太な要素」が多数含まれているのである。小泉元総理ではないが、(この本を読んで)本当に感動した!

ところで、福澤さんの肖像は現在、我が国の最高紙幣である「一万円札」を飾っている。前回が聖徳太子であることを考えれば、その評価の高さは自ずと知れよう、というもの。

ただ、残念なことに、この「偉人」をドラマ化した作品は余りない。もう随分と前にNHKの短いドラマがあったが、そろそろ大河級でどうだろう?龍馬とはまた違った「視点」で眺める幕末史も是非観てみたいものだ。