2010/11/20

ツワの花で思い出す…故・池部良さんの名随筆

最近、「ツワブキ」の花がそこかしこに綺麗に咲き乱れている。同じ黄色系でも「セイタカアワダチソウ」とは随分と様相が異なる。日陰でそっと咲く、清楚な姿もいい。

調べてみると、漢字では「石蕗」や「艶蕗」を充てるそうだ。また、観光地として知られる島根県・津和野の名前は「石蕗の野」から来ている、という。

島原の場合は「フキ」の部分を略して、「ツワ」と呼ぶのが一般的。「フキ」との最大の違いは、フキが夏緑性であるのに対して、ツワは常緑性。

我が家の裏庭にも所々に何十本も咲いており、時々眺めては楽しんでいる。もっとも最近は、日陰は寒いので〃ちょっと見〃に止めているが…。

フキもそうだが、子供の頃は、こうした類いの「煮物」が大の苦手だった。正直、大人はどうしてこんなモノが美味いのだろう?と不思議だった。

ところが、最近は違う!年をとったせいもあろうが、肉や魚、或いは一般的な野菜とも異なる〃日本の味〃がするのだ。〃古里の味〃と言ってもよい。

と、ここまで書いたところで、フキだったかツワだったか忘れてしまったが、先日亡くなった俳優の池部良さんが以前、毎日新聞紙上で書いていた随筆のことを思い出した。

よく「天は二物(にぶつ)を与えず」と言われるが、名優と呼ばれる人は、えてして文章も上手い。高峰秀子さんしかり、森繁久弥さんしかりである。

池部さんも間違いなくこの手の〃才人〃であった。父は風刺・風俗漫画家として知られた池部釣。「芸術は爆発だ」の岡本太郎さんが従兄だったとは、今日までついぞ知らなかった。

随筆の話に戻る―。池部さんが育ったのは東京・大森ということだから、高級住宅地だったことは間違いない。確か、文章の中でも、その広い庭の様子を取り上げていた。

そうしたお金持ちの家には、お手伝いさんは付き物だが、この「○○ちゃん」と坊ちゃん(池部さん)の絡み方が、何とも言えず面白いのだ。

つまりはこういう事だった。広大な池部邸の庭にはフキだったかツワだったがいっぱい生えていて、ある時、坊ちゃんは何とも奇妙な光景を見てしまった。それは○○ちゃんがヒョイと茂みに隠れて云々…。

記憶が定かでないが、ある日の池部家の夕餉に上がったおかずは、件(くだん)のフキかツワかの煮物で、「複雑な心境で食べたのだ」とかいう結びであった。

読後、腹を抱えて大笑いしたことを今でもよく覚えているし、「上手いなぁ!」と感心もした。そう、池部さんに関しては、天は間違いなく「二物」をお与えになったのだ。

ところで、「二物」はいいとしても、よもや我が家の周辺で、夜陰に乗じて「一物(いちもつ)」を取り出すような〃不逞の輩〃はおるまい???