我が身の春はまだ…場違いの結婚パーティ
インフルエンザ崩れの「腸炎」以来、何となく体が宙に浮いた感じで毎日を過ごしているが、歳月はその間も几帳面に足取りを重ね、時折その轍(わだち)の内に季節の移ろいを見つけては、涙ぐんだりしている。
過日、大事な取引先(社長)の結婚披露パーティに招かれ、上京してきた。会場は恵比寿の高台にそびえ立つ、元ハンガリー大使公邸。都心にありながら静かな空間が広がる、絵に描いたような瀟洒なレストランだった。
ハッキリ言って、住む世界が全く違うと思ったし、そうした「場違い感」は最後まで払拭できなかったが、身の丈以上の御祝を包んだ以上、「取材」も忘れてはなるまい…?
招待客は約百人。数の上での圧迫感は何ら感じなかったが、受付を済ませて控室に入った途端、ただならぬ気配を感じた。
一目でイタリア系だと分かるマカロニ紳士軍団が部屋の中央広く陣地を取り、それを取り囲むように、ドレス姿の日伊の淑女たちが列をなしていたのだ。
と、そのうちに「何かお飲み物は」と、フロアスタッフが注文を訊きにきた。本当はビールを頼みたいところだったが、ジンジャーエールにとどめた。
誰と話すでもなく、そのまま待つこと半時間。おっ、やって来たぞよ、有名人が。敢えて名前を挙げることはしないが、ある時期、相当にマスコミを賑わせた、ヤリ手の経済人だ。
そのうちに芝生張りの庭園に移動して、人前スタイルの挙式が営まれた。ここで初めて見る花嫁。いやー背が高い!どう少なく見積もっても、百七十センチは下るまい。
改めて受付で貰った資料をひも解いてみると、年の差は15歳。それに社長は2度目だし、成人した男の子供さんもいたはずだ。
チクショー、それにしても花嫁の美形なこと。あの社長、どうやって口説いたのだろう…。「神仏」の前ではないので、下世話な想像力を膨らませながら、時間をつぶした。
そして迎えた披露宴。隣席はいかにも都会育ちといった感じの黒服兄さん。オールバックの髪形がやけにカッコいい。
祝辞を述べたのは、新郎のかつての上司で、現在は作家という肩書きの紋付オジサン。なかなか風刺の効いた、良い挨拶だった。
料理はフランス風でナイフとフォークがいっぱいあって迷ったが、「全ては外側から」の原理原則を墨守。物足りない分はパンのお代わりでしのいだ。
島原と違って「ヨメゴドーイ」も「カマブタカブセ」もなかった。しかし、プロのマジシャンの手品で大いに盛り上がった。
パーティは大過なくお開きになった。でも、筆者はよほど緊張していたのだろう、クロークに預けたコートのことはすっかり忘れたまま会場を後にしていた。
翌日、東京には雪が舞った。どうやら我が身の春はまだ遠いようだ。
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