2011/07/10

佐野さんが緊急出版…「東電そのものが政治だ」

東日本大震災を機に、それほどまでに日本という国全体が迷いに迷っているということの証左か。最近、本欄を書きながら「一体、どっちなんだ?」という思いに苛まれている。

元凶とも言うべきは、他ならぬ「フクシマ」に端を発した原発問題。肝心要の東電の対応は言うに及ばず、今や国政そのものが完全にダッチロール状態に陥っているように見える。

そんな中、胸のすくような著作に出合った。我が国ノンフィクション界の巨人、佐野眞一さんが病後の身や被爆の恐れも省みることもなく被災現地に入って、緊急出版に踏み切った『津波と原発』(講談社)という労作だ。

6月18日に初版が出て、その2日後には版を重ねていることからしても相当な売れ行きであろうが、そんなことより、「事の本質」(問題の核心)が感情を抑えた(事実を積み重ねた)鋭い筆致で描かれていて、文句なく面白い!

作者の筆は、慇懃無礼を絵に描いたような対応が習い性となっている東電の体質を半ば嘲笑うかのように切り刻み、現代政治の貧困を嘆き、そして通り一遍の報道しか成し得ていないマスメディアの在りようを厳しく断罪している。

また、その批判の矛先が、原発を専門とする研究者や評論家、果ては「原発絶対反対!」一辺倒の考え方で凝り固まっている同業の士にまで向けられている点も興味深い。

圧巻なのは、第二部〈原発街道を往く〉の中に収められている数々の〃秘話〃。そもそも世界で唯一の被爆国である我が国に、どういった経緯で「原発」という発想が生まれ出てきたのか?(第二章)

さらに進んで、次章では〈なぜ「フクシマ」に原発は建設されたか〉について、当時の政財界人脈をもとに詳説。それもこれも全て、実際に現地に足を運び、膨大な資料を読み込んでの〃実話〃である。是非ご購読を!

ところで、数日前の某新聞のコラム欄に、現在の菅総理(民主党)とはまったく肌合いを異にする小泉元総理(自民党)が、最近発したという言葉が紹介されていた。

それは元総理が在任中に、ヒザの故障にもめげずに本場所優勝を果たした貴乃花(横綱)に送った「感動した!」という賛辞をもじったもの。つまり、「菅、どうした?」と

単なる「語呂合わせ」という捉え方もあろうが、所属する政党こそ違え、先輩総理からの一言である。意味深なのかどうか…。

さて、その「菅、どうした?」についてだが、与野党問わず「辞めろ、辞めろ」の大合唱があるかと思えば、一方で「居座れ」(作家・池澤夏樹さん)という人もいる。

しかも、ページこそ違え同日の紙面での話だ。「一体、どっちなんだ?」と再び頭を抱え込んでしまうが、佐野さんは言う。「東電(原発)そのものが政治だ」と。ウムー…。