無くなった奥歯2本…ワイルド男の哀れな末
かつて学んだ田舎の小学校にこんな貼り紙があった。《廊下は走らないようにしましょう》と。
児童でも生徒でもない今の暮らしには、走るほどの距離の「廊下」も何も備わっていないが、その代わりに「老化」だけは確実に〝駆け足〟で進んでいっているようだ。
数日前から右の一番奥の歯(下部)が浮いているような感じがして、何とも気持ちが悪かった。たまらず昨日、歯科医院へ駆け込み「何とかして下さい!」と頼み込んだ。
まずはレントゲン検査。ほどなくして映し出された〝陰影〟を見ると、病巣と想われる部分に黒い筋が1本。「これが原因ですね」との先生の診立てで、抜去することに。
しばらく時間待ちがあって、今しがた撮られたばかりの我が〝分身〟の姿をしげしげと眺めていて、ふと気付いた。同じように左の奥歯(同)も以前に抜かれていたのだ。
いささかショックを受けつつも、事実なのだから仕方がない。後はすべて先生の為すがまま。麻酔のおかげで、さしたる痛みを感じるでもなく、処置は無事終わった。
帰りの車の中で血生臭いガーゼの味を噛みしめながら、自分なりにその原因について考えてみた。そして得た結論は―。
一言でいうと、若い頃に犯した無理がたたったものとしか思えない。つまりは、ビールの栓開けだ。今では宴会場以外では缶ビールが主流となっているが、昔はそのほとんどがビン製だった。
そこに栓抜きがあるのに、周囲の眼を意識する余り、わざわざ自分の歯(テコの原理)で開けて見せて意気がっていたのだから、もうバカとしか言いようがない。それにしても、よもやこんな形で〝逆襲〟されるとは…。
ということで、昨晩はアルコール抜きの簡素な夕食。メニューは、噛まなくてもスッと喉を通るタマゴ豆腐2個。まったくもって散々な一日だった。
ただ、一夜明けると、すっかり血も止まっており、舌で傷口をなぞってみても何ともない。「良かった!良かった!」と胸を撫でおろしつつ、いつものように水撒きに向かった。
花は変わりなく綺麗だし、木もすっかり元の勢いを取り戻している。しかし、この花や木もいずれ時が来れば朽ち果ててしまう運命か…。
つらつら思うに、その字のごとく、花は草が化けたものだ。それが人の目には美しいものに映る。
女性もしかり。化粧を施せば、それなりに美しく化けることが可能となる。ややもすると、世の男どもはその〝変幻ぶり〟に惑わされ、必要以上に虚勢を張ってしまう。
筆者の若かりし頃の〝暴挙〟の背景にも、似たような思惑があったことは否めない。ワイルドしか売りのない男の末は、何とも物悲しいものだ…。
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