2013/03/01

戦後の“日米関係”…裸で付き合った岸首相

 3月。卒業、そして人事異動のシーズンである。転勤などとは一切無縁の我が身にとっては格段の思いもないが、宮仕えの方々におかれては、そろそろ〝辞令〟の行方が気になり出すところか…。

「すまじきものは宮仕え」という古い言い回しがある。その意味は「他人に使われる官庁や会社勤めは出来たらやらない方がいい」ということだが、今の世相には合わない。ことに、働く場が限られている地方に居ては、役所ほど安定した職場はあるまい。次に来るのが金融機関か…。

かつて日本経済が元気だった頃、植木等さんは「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ♪」などと調子よく歌っていたが、これなんぞもまた「今は昔」の話。何はともあれ、時代のいかんを問わず、政治のリーダーシップが庶民の暮らしと深く係わっていることだけは確かだ。

最近、ある人に薦められて『戦後史の正体』(創元社)という本を読んだ。全篇400頁ほどもある大作でいささか骨が折れたが、平易な表現で書かれており、すこぶる面白かった。
著者は元外務省国際情報局長の孫崎享(まごさきうける)さん。以下はその〝受け売り〟だが、今の政治状況を傍目から見ていく上でも大いに参考になる。例えば、安倍首相が先の米国訪問の際に、オバマ大統領にゴルフのパターをお土産に持っていったという話。

このエピソードはどこかのテレビ局でも紹介していたが、アイデアの発端となったのは祖父(岸信介元首相)の時代までさかのぼる。

岸さんが渡米した案件は他でもない「新日米安保条約」の締結に関するものだったが、この時(昭和32年6月)、岸さんはアイゼンハワー大統領と会うなり、二人きりでゴルフに興じている。

そのくだりについて同書では「プレーのあと、真っ裸になってふたりで差し向かいでシャワーを浴びながら話をした。これぞ男と男の裸のつきあいだよ」(抜粋)といった『岸信介の回想』を紹介している。

安倍首相がオバマ大統領との会談の後、どんな行動をとられたか知る由もないが、とても〝裸のつきあい〟は無理だろう。

著者は戦後の米国と日本の関係について、歴代首相の〝政治姿勢〟の違いを通史的に分かりやすく解説している。端的に言うと「対米追随派」か「自主路線派」か。

前者の代表格が吉田茂、池田勇人、三木武夫、中曽根康弘、小泉純一郎の各氏。後者は降伏文書(昭和20年9月2日)に署名した重光葵(まもる)を筆頭に、石橋湛山、芦田均ら。それを読み進めていくと、戦後の日本(歴代内閣)がいかに今日まで米国に翻弄され続けているか、が実によく解かる。

意外なことに岸さんは後者に位置付けられている。はて、懸案のTPP交渉に臨む〝お孫さん〟のスタンスは?