舌噛んでどうする?…いくら牛タン好きでも…
出張の楽しみの一つは食事である。付き物の酒は「ビール&芋焼酎」に決めているから、どこに行こうが余り変わりはない。ただし、異郷では殊に〝飲み過ぎ〟は禁物だ。
延岡(宮崎県)では「ジンタン」(?)をいただいた。「ギュータン」(宮城県)の誤りだろうと早とちりしてはいけない。正真正銘の「人間の舌」だ。しかも、自分自身の…。
丸テーブル上を回ってくるツマミを矢継ぎ早に口に放り込んだ途端、誰かが背後から肩を叩いた。「ガリッ」。振り向きざまに、鈍い音がしたような気がした。
隣のオジサンに悟られないよう、そ~っと舌先に指を当ててみたら、血糊がべっとり。それに痛い!
まだ宴は始まったばかりだったから中座するわけにもいかず、途方に暮れていたが、ある時点で腹をくくった。そう!好物の芋焼酎で直に消毒しようと思ったのである。
最初、舌を浸けた時にはちょっとだけ沁みたが、次第に麻痺して、もう何とも感じなくなった。酒の力とはつくづく怖いものだ。
そんなこんなで、ようやく〝お開き〟の時間が迫った頃、信州(長野県)にある某紙の常務さんが「島原からですか?」と声を掛けてきて下さった。
「僕は間もなく60歳になりますが、大学を卒業した時に国鉄(当時)の割引切符を使って、九州一周の旅をしました。最初に訪れたのが実は島原半島なんですよ!」と。
舌の痛みもすっかり忘れて話し込んだ。聞けば、「島原鉄道にも乗った」と言う。「また行ってみたい」とおっしゃったので、「その時は是非ご連絡下さい」と名刺を交換した。
去り際に親しくなったもう一方は、元毎日新聞の記者さん。どういうわけか島原新聞のこともよくご存じで、〝某本屋さん〟の話で大いに盛り上がった(実名を挙げたら差し障りがあるようなので…)。
二次会にも誘われたが「舌」のことも少しは気がかりだったので、そのまま近くに予約していたビジネスホテルまで歩いて帰ることにした。
すると、今度は玄関先でパン売りのお姉さんにつかまった。「一袋500円の美味しいパンですよ」の誘い文句についフラフラ。惜しげもなくワンコインを差し出した。
若い頃なら絶対にサボらなかった二次会も、最近は随分とご無沙汰するようになってしまった。それもこれも年齢のせいか…。
今朝ほどは、しみじみと己の〝老け顔〟を眺めながら、ベロ(舌)の具合も確かめてみた。もうほとんど治りかけのところまできているようだ。
出張もあと2日。拙稿は新幹線の車中で叩いている。次は舌を噛むような情けない話でなく、舌を巻くような大原稿をお届け出来れば…と願っている。
誰だ?〝二枚舌〟と言っているのは―。
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