人の価値は棺の蓋…お世話になった方が次々と
文芸春秋の巻末近くに「蓋棺録」(がいかんろく)というコーナーがあるのをご存じだろうか?有り体に言うなら、最近死去した著名人たちの回顧録だ。
筆者の身の回りでも今年に入って、随分とお世話になった人々が次々と亡くなられている。元商工会議所専務理事の河野俊文さんや田代尚子さん(田代則春弁護士夫人)、そして26日に旅立たれた丸政水産会長の坂田政男さんなど…。
各々筆者にとっては思い出深い方々だ。文芸春秋誌のように格調高くまとめることは到底望むべくもないが、〝オレ流〟でチャレンジしてみるか―。
河野さんはすでに鬼籍に入られた隈部長太郎さん(エンゼル玉屋)や福山隆之さん(未来企画)らとも仲良しで、弊紙の社長も伴って正月明けの「十日恵比須」(福岡)に〝商売繁盛〟のお参りをされていた、と記憶している。
筆者との個人的な付き合いは雲仙岳災害記念館の館長職を退かれてから。同じくリタイア組の元朝日新聞記者の佐藤元幹さんらとともに〝仲間内〟のゴルフコンペに時々参加させていただいていた。
ある日の打ち上げ宴席でのこと。前にも書いたが、筆者は不覚にもメバルのホネを喉に詰まらせてしまった。筆者の苦しみをよそに、皆さんは上機嫌でカラオケを歌おうと、二次会場のスナックへ。
そこで河野さんが一言。「ママさん、ご飯の余っとったら丸呑みさせてくれんね」。でも、やっぱダメ。ならば〝次善の策〟をと、「食パン」が供されたが、ついぞ効果無し。最後は「まっ、命に別条は無かろけん!」と断を下した河野さんのクシャクシャ顔が忘れられない。
余談だが、次の日の朝一番に耳鼻科に飛び込んで処置してもらったら、長さ3センチ程の艶光りする弓状のホネが出てきた。
田代先生の奥様は芯のしっかりした物静かな方だった。葬儀で弔辞を読まれた法曹界の重鎮の方々が口々に仰っていた。「よくまあ~こんな〝ワンマン亭主〟に尽くしてきたよね…」としみじみ。この正鵠を射たご指摘には、さすがの先生も反論できず!?
丸政会長は豪快なだけの経営者ではなかった。筆者自身も仕事のことで幾度か相談に伺ったことがあるが、やさしい口調で丁寧なアドバイスを下さった。
ある時、国際線の機内でお会いしたこともある。会長の目的はゴルフツアー。「ありゃ、清水社長もよう海外に行かすとかない?」と怪訝な表情。
すると我が社長曰く。「いんにゃ、オラ初めてばない。娘(シンガポールで先生)に会いに行きよっと。遠かない…」。すぐにご納得いただけたようだった。
「人の価値は棺の蓋を閉めてから」―。丸政女性従業員の皆さんの嗚咽の脇で、筆者も思わず〝もらい泣き〟してしまった。合掌。
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