野田氏、早慶戦に勝利…前途多難な「船出」ながら
「ノーサイドにしましょう、もう」―。民主党の新代表(=次期総理)に選ばれた野田佳彦さんは当選決定後の挨拶の中でそう呼び掛けたが、まずもって無理だ。
それが甚だ難しいのを一番よく分かっているのは当のご本人だろうから…。だからこそ敢えて、この「ラグビー用語」を修辞として使ったのだろうが、すでにあの時点から新たな「権力闘争」がスタートしているはずだ。
期せずして、今回の代表選の決選投票は、早慶戦となった。それぞれの出身校が、「野田=早稲田」「海江田=慶應」の構図だったからである。
かつては暗黙のうちに、政治家&マスコミは早稲田、経済界は慶應―という「棲み分け」のようなルールが存在していたが、最近はいずれの舞台でも慶應サイドが押し気味のような感じだった。稲門関係者にとっては一矢を報いた思いか…?
ともあれ、前途多難な「船出」ではあるが、新しい総理の誕生に対して、率直に「祝意」を表することは無論やぶさかではない。
振り返ってみると、野田さんの「勝因」の一つは、演説の上手さだろう。2千回を超えるという選挙区(船橋駅前)での街頭演説で培った「話術」は短い選挙期間ではあったが、テレビ報道等を通じてもいかんなく発揮されたようだ。
増税論議云々の是非はともかくとしても、主張する内容にブレは少なかったし、落ち着いた語り口にはある種の「説得力」も伴っていた、ようにも思う。
一方の海江田さんは、中国の故事にも詳しかった故・野末陳平さんの秘書出身という経歴からか、随所に難解な言葉づかいも見られたが、最終最後で持ち出した「座右の銘」(人生意気に感ず)は余りにもお粗末ではなかったか?
要するに、徹頭徹尾「政治家であること」を意識して活動してきた愚直な人間と、やや才が勝ち過ぎた人間との違いが露出した結末であろう。
新総理は54歳というから筆者とほぼ同世代。父は自衛隊員、母は農家育ち。千葉という東京の近郊で育っていながら、どことなく「田舎臭い感じ」がしないでもない。
それに、あの風貌。柔道の有段者で大の日本酒党だという。年齢相当に適当に脂ぎっているし、ステテコ姿も似合いそうだ。
週刊誌の情報によれば、2人の息子がいて、長男は筑波大の医学部生。次男は高校生で、柔道界の有望株だともいう。
松下政経塾の後輩で国民的人気の高い前原誠司候補の出現で、一時は危ぶまれた「総理の座」をグイと引き寄せた「腕力」に一定の敬意を払いつつも、どこか「不安」が拭いきれないのも、国民等しく思っているところだろう。
マスコミの「ご祝儀報道」もそう長くは続くまい。一敗地にまみれたか「剛腕」をどう御していくのかにも注目が集まる。